はじめに
近年、深刻な人手不足を背景に、特定技能制度が制度運用・手続きともに見直しを迎えています。2025年(令和7年)4月1日以降および9月以降にかけて、受入れ側である企業・登録支援機関・所属機関には、これまで以上に「効率化」と「実効性ある支援」「法令遵守」が求められる改正がなされました。 (法務省)
本稿では、主な改正ポイントを整理し、企業が今から準備すべき実務対応も併せて紹介します。
改正の背景と位置づけ
制度の創設から変化まで
制度としての特定技能制度は、2019年4月に創設され、深刻な人手不足が続く14業種において外国人を中・長期的に受け入れる枠組みとして始まりました。 (GLORY OF BRIDGE)
ただ、実務上、①届出・報告の頻度・手続きが煩雑、②支援の実効性が十分でない、③地域住民との共生対応が弱い、といった課題が指摘されてきました。2025年改正では、これらを是正する観点から「手続の簡素化」「支援ルール・報告義務の明確化」「自治体等との連携強化」がキーワードになっています。 (特定技能解説ブログ(行政書士法人MIRAI))
企業側としては、「単に外国人を受け入れる」フェーズから、「外国人が職場・地域で定着・活躍する」フェーズへと受け止め方を転換するタイミングと捉えると良いでしょう。
主な改正ポイント
以下、企業・支援機関が特に押さえておきたい改正点を4つの観点で整理します。
① 定期届出・報告ルールの変更
何が変わったか
- 四半期ごとに提出していた「定期届出」が、年1回提出に変更されます(対象期間:4月1日~翌年3月31日、提出期間:翌年4月1日~5月31日)。 (BEENOS HR Link)
- 届出書類も「受入れ・活動・支援実施状況に係る届出書(参考様式第3-6号)」に一本化され、従来の「受入れ・活動」「支援実施」の二様式が統合されました。 (行政書士しかま事務所)
- 内容として、例えば「労働日数・労働時間数」「給与総額」「昇給率」「支援実施状況」など、より「実績・定量」部分の記載が重視されています。 (BEENOS HR Link)
企業が今すべきこと
- 年1回の提出になることで「四半期ごとに慌てて資料を集める」運用から「年間を通じてデータを整理・管理」する体制に移行しましょう。
- 統合書式になったため、受入れ機関・支援機関それぞれの報告範囲を改めて確認し、内部でデータ取得フローを整備しておくことをお勧めします。
- 特に「支援実施状況」の数字・実績が求められるようになるため、支援記録(面談実績、研修実績、支援内容)を定期的に整理・保管しておきましょう。
② 随時届出・不正・支援困難のルール強化
何が変わったか
- 在留資格許可後、1か月以上就労開始できない場合や、就労が1か月以上できない状況になった場合に「受入れ困難に係る届出(参考様式第3-4号)」の提出が義務化されました。 (career.kedomo.com)
- 「特定技能雇用契約及び1号特定技能外国人支援計画の基準等に係る不適合届出(参考様式第3-5号)」の対象範囲が拡大され、「省令基準に適合しない場合」が新たに届出対象となりました。具体例として、社会保険・税金の滞納、非自発的離職、外国人に対する賃金未払い等が挙げられています。 (BEENOS HR Link)
- 支援を自己実施している所属機関において、「支援計画が実施困難となった場合」にも届出(参考様式第3-7号)が新設されました。 (BEENOS HR Link)
企業が今すべきこと
- 支援を自社で行っている場合、支援体制(面談、生活支援、定期フォローなど)が実行困難になった場合の逸脱フローを作っておくと安心です。
- 就労開始が遅延しそうなケース(例:住居手配が遅れている、健康問題の発生)があれば早期に想定して、社内でフローを定めておきましょう。手続き漏れが許されなくなっています。
- 税・社会保険・雇用契約等の管理を改めてチェックし、「基準不適合」に該当しうるリスクを洗い出すことが重要です。
③ 在留資格申請・受入れ側手続きの簡素化・条件明確化
何が変わったか
- 在留資格申請時に、所属機関の適格性を証明する書類(登記事項証明書・役員住民票・社会保険・税金証明等)が省略可能になる条件が設けられました。対象となる機関は、「オンライン申請・電子届出を行っている」「上場企業など一定の事業規模」「過去3年間指導・勧告なし」等の要件を満たす場合です。 (特定技能解説ブログ(行政書士法人MIRAI))
- 申請書(省令様式)に「地域の共生施策に関する連携」の項目が追加され、支援計画に地域自治体との協力確認が必須化されました。 (career.kedomo.com)
企業が今すべきこと
- 自社が省略対象の「適格性簡素化条件」を満たしているか確認し、今後の申請・受入れ設計に活かしてください。
- オンライン申請・電子届出の体制を整備しておくことが今後の優位性につながります。
- 支援計画を策定する際、必ず「自治体との協力確認(どこの自治体/どの施策/いつ確認したか)」を明記できるように、自治体との窓口・施策情報を事前整理しておきましょう。
④ 支援面談・オンライン化・支援計画の質向上
何が変わったか
- 初回面談や担当者変更後面談は対面推奨ですが、それ以外の定期面談は 条件付きでオンライン実施が可能になりました。録画・保存義務や同意取得が条件です。 (特定技能解説ブログ(行政書士法人MIRAI))
- 支援計画には「地域共生社会への協力」が明確に位置づけられ、支援の枠を労務・生活支援にとどめず、地域との接点・定着支援へ広げる動きが強化されています。 (特定技能解説ブログ(行政書士法人MIRAI))
- 登録支援機関や所属機関には「再委託禁止」「外国人の意思表示妨害の禁止」など、支援の実効性・透明性を担保するルールが明確化されました。 (特定技能解説ブログ(行政書士法人MIRAI))
企業が今すべきこと
- 面談実施の記録・保存体制(オンラインの場合の録画保存・同意文書)を整備しておきましょう。
- 支援計画策定時に「地域との協力」や「定着支援」の観点を反映させることで、単なる「受け入れ」ではなく「共に働く・地域に溶け込む」外国人材支援へと制度対応を進化させましょう。
- 支援を外部機関へ委託している場合も、支援実績・記録を定期的に確認し、支援機関選定時には「実効的支援」ができるかどうかの観点を加えることをおすすめします。
受入れ企業にとってのメリット・注意点
メリット
- 年1回の定期報告に変更されることで、届出・報告にかかる事務負担の軽減が見込まれます。 (行政書士しかま事務所)
- 在留申請時の書類省略条件を満たせば、手続きが簡素化され、受入れまでのスピードが改善されうる環境になりました。
- 支援・定着を視点に制度設計されてきたため、長期的視点で外国人材を「戦力」として受け入れる方向性が後押しされます。
注意すべき点
- 手続の簡素化とはいえ、支援体制・報告義務・自治体連携といった「制度対応力」が問われる水準が上がっており、体制整備が追いつかなければリスクとなる可能性があります。
- 書類省略が可能な企業は条件を満たす必要があり、該当しない企業には従来通りの書類対応が求められます。
- 支援実績の記録や報告内容の質が高まるため、これまで以上に「数字」「実績」「フォロー体制」を可視化・管理することが重要です。
企業が今から行うべきチェックリスト
以下、受入れ準備・運用管理において「今すぐ着手すべき」項目を整理しました。
- 自社のオンライン申請・電子届出体制を確認・整備する。
- 過去3年間の指導・勧告歴、社会保険・税金・労働保険料の納付状況を確認し、適格性の条件を満たせるかチェック。
- 年間を通じた「受入れ外国人の労働時間・日数・給与」「支援実施実績」のデータ管理フローを設計。
- 支援計画において「地域自治体」「地域共生施策」との連携確認をあらかじめ取得・記録。
- 面談記録(対面・オンライン)・支援記録を保存・管理できる仕組みを整備。
- 税・社会保険・労働契約・報酬支払い等において、制度改正後の「基準不適合」のリスクがないか内部チェック。
- 支援を外部委託している場合、支援機関の実務体制(オンライン面談対応、実績管理、記録保存)を改めてレビュー。
おわりに
2025年度の特定技能制度改正は、「手続きの効率化」だけではなく、「実効性ある支援・定着」「地域との共生」という観点が強められたものとなっています。企業が外国人材を受け入れ、定着を図るうえで、制度対応力の差がそのまま競争優位/リスク要因になりかねません。
今こそ、制度変更を単なる「対応」義務ではなく、「外国人材を戦力化し、組織・地域と共に成長させる機会」と捉えて、体制整備・データ管理・支援設計を前倒しで進めることをお勧めします。
ご希望があれば、業種別(製造・建設・宿泊・運輸など)/規模別(中小企業向け)に「実務対応の詳細」や「テンプレート案」を作成することも可能です。どうされますか?